坂上:まず会社名とお名前、事業内容や会社の規模について伺わせてください。
小板橋社長(以降「小板橋社長」と表記)
DIグループ(株式会社大一不動産、大一建設株式会社、株式会社DI・SANWA CORPORATION)・小板橋博幸です。
事業内容は、一般建設(店舗、医療施設、賃貸マンション・アパート)、注文住宅、中古住宅売買、リフォームおよび賃貸マンション・アパートへの入居者募集・管理や生命保険の見直しその他。前年度の売り上げが約45億円、経常利益が約2億円、利益率が約4,4%になります。現在従業員は約75人です。
坂上:次に社長様のプロフィールをお伺いします。お歳やこれまでの経歴をお聞かせ下さい。
小板橋社長:群馬県高崎市で生まれで小学校入学~大学卒業までは東京で暮らしました、51歳です。東京の大学を卒業後、銀行で5年間勤務し、融資や融資外交をしていました。平成5年に妻の父の後を継ぐ形で不動産業を始め、M&Aを経て現在3つの会社の代表取締役を務めています。
坂上:経営理念をつくったきっかけを教えていただけますか?
小板橋社長:当初はいろんな本を読んでて、ひとつの旗印が必要だと思っていました。銀行に勤めていた時、3つのSという標語がありまして、それをもじって3つの何かを作りたいと思ったことがきっかけです。
坂上:さらに根本的なきっかけは何だったのでしょうか?
小板橋社長:銀行です。私は、銀行みたいな不動産建設業をしようと考えたんです。個人の考えで動く三和銀行に思い入れがあって。当時いろんな銀行からお誘いがあったんですが、人で決めたんです。野武士集団と言われるような組織で、軍隊的に動くのではなく、個人の考えで。入行2年目ぐらいの人間が新商品をOKするような銀行でした。そういう先輩にほれて入ったんです。ですから、三和銀行のような会社を作るんだという思いが僕の中に未だにあります。
坂上:平成5年に、そういった思いを形にしたいと思ったということですが、そう思ったきっかけは何ですか?
小板橋社長:業界として、認められるような会社じゃないと感じたことです。例えば重要事項説明書というのがありますが、それを私はだいたいお客さんに2,3時間かけて説明していたんですが、ほとんどの人は1、2分で。『ここにサインして』で終わってたんですよ。当時の業界の人の働く姿勢を見て、この人たちと付き合うのは嫌だし。同じに見られたくないと思いました。
坂上:理念を作る中で気づかれたことはありますか?
小板橋社長:考えることに相当時間をかけました。そこにはやはり顧客目線、顧客起点と、私を含めて社員がどういうかかわり合いを持てるかということを、自分の中で一番ポイントとして考えていました。
坂上:経営理念をつくる期間はどれくらいでしたか?
小板橋社長:作ると決めた時にはもう1日で出来ました。
坂上:この5年間の中で作り上げていったということですね?
小板橋社長:そうです。その中でいろいろ自分の考えがありました。例えば、『夢と感動』というのが第一項に出てくるんですが、これは実は、DIグループのDIに絡んでいます。このDIは元々DAIICHIのDIで、「出会い」を主にしました。そこから本格的に考えた時に、出会いからどこにいくのかを考えたらDreamsを思いつき、さらに、感動という意味のImpressionsを入れました。我々は住環境をやっていますから、お客様と社員が一緒に『夢と感動』に向かっていけたらいいなと。
坂上:ここに100人の中小企業の経営者がいるとして、約6割の人が、『経営理念って大事なのかな?』と思っているとします。その人達向けに理念の大切さを伝えたいんですが、平成5年の時点で経営理念と呼べるものはありましたか?
小板橋社長:もともとは持っていませんでした。
坂上:平成5年から10年の5年間で、どのようなことを学び、どのようなことに悩み、どういうふうに理念を作っていったのかということを、その6割の人達への1つの事例としてお話しされるとしたら?
小板橋社長:元々僕は一人で何でもできると思っていたのですが、全くできないことに気付いたのです。銀行で融資外交をしていた時も、何しにきたんだ、と言われることが圧倒的に多かったです。また、不動産業を本格的に実践するにあたって、名刺を3,000枚くらい刷って、1件1件歩いて色々提案したんです。そこで節税のアドバイスなどをして『知らなかった。ありがとな。』と言われたことがきっかけですね。ありがとうと言われたことがすごく嬉しかったんです。
坂上:つまり、普段言われない環境の中で、仕事を通じてお客様からありがとうと言ってもらえたことがご自身の嬉しさだったということですね。それを積み重ねて、この言葉に結実したのですか?
小板橋社長:本当にそこですね。私は人が好きだと言い切れるんです。結局、自分を好きになってくれた人が情報をくれるようになりました。だからツキはきっと人が持って来てくれるものだと思っています。だから、その人との「ありがとうの関係」を築けば、その人が持ってきてくれる。その人のために頑張ろうと。
坂上:実務から理念を作り上げる人、本や人との出会いから影響を受ける人などおられますが、ご自身の場合は?
小板橋社長:平成10年に社員を急激に増やしたんです。それまで勤めていた業界の常識が嫌だったので、自分の考えを素人に教えたいというのがありました。今もその主婦たちが残っているんですが、当時、彼女たちは仕事が面白いと言って非常に喜ぶんです。彼女たちは全く不動産というのを知らない中で、不動産ではなくて人間と話をすればいいんだから、ということで窓口をやってもらいました。人と話ができることを面白いと感じる子たちがたまたま採用できたということもあるでしょうが。
何かあると、『社長ありがとうございます。何だか楽しくて。』なんて言われると、乗っちゃうタイプなので、どんどん増やそうという気になっていきました。自分も楽しくなるので。僕、実は仕事で楽しいと思ったことがないんです。
坂上:いつの時代ですか?
小板橋社長:ずっとです。仕事が楽しい、明日仕事だって思ったことは未だに一度もないんです。今でもそうです。
坂上:先ほどのことも、仕事ですよね?
小板橋社長:いえ、戦略練りを前の日にやる中で、資料作りの時に「明日いけるぞ、楽しい。」ということはないですね。「よし、この方に納得していただくぞ。」というようにずっとやってきたので、銀行時代を含めても、「明日仕事だ、楽しい」っていう感覚はないです。要は、僕の中で今解釈してるのは「嬉しい」なんです。嬉しいを求めてるんだろうなと思います。楽しいではなく嬉しいを求めていて、お客様にありがとうって言ってもらうと「嬉しい」ですね。それがほしいからやってるんだと思います。それが最大のモチベーションです。
坂上:経営理念をつくる上での工夫は?
小板橋社長:実は3つ同時に平成10年につくったわけではなくて、理念の2番目として挙げたものが10年に作ったものです。
坂上:二番目というのは、『お客様第一主義を貫き地域社会の・・』というところですね?
小板橋社長:そうです。それが最初に作ったもので、1番目と3番目ができたのは平成17年です。途中で2つも考えていたんですが、わざわざ足す必要もないと思っていました。平成17年というのはM&Aした年なので、そこで足しました。
坂上:なるほど。推測するとM&Aっていうのは2つの会社が一緒になるということなので、それまでの経緯を知らない人がいるので、この言葉にしようと思ったということですね。つまり、経営理念をつくるひとつのきっかけというのは、M&Aをしたことで、事実としてはM&Aですが、集う人たちに考えを伝えようとした、という捉え方で合ってますか?
小板橋社長:そうです。既存の社員と融合させて、うちの会社の傘下に入ってもらったので、これの下でやるよっていうのを、元々3つの感覚があったので、最初の時はこの真ん中だけでいいっていう考えで、でも常に1番目と3番目の話はしてましたんで、そういう中でいよいよ正式に文字にしたというのが17年です。
坂上:経営理念は必要だと思いますか?
小板橋社長:なければならないものだと思っています。最初の頃は、必要な旗印、自分の思いを伝えるものと認識していたんですが、今はお客様に『うちの会社はこういう経営理念で、私もこれに感銘して仕事してます。』と言う社員もいます。自分の分身をつくっているイメージです。自分の凝縮した考えでやっていたのが、今ではそれを社員が喋ってくれる。会ったことのないお客様に、『すごい経営理念でやってらっしゃるんですね。』と言われた時に、こうやって変化していく事実が、経営理念がなくてはならないものと思った理由です。
坂上:その経営理念を作る根本として、ご自身の中に何があるのですか。
小板橋社長:私は基本的に、嫌いな人間とは仕事はできないと思っています。ですから、この経営理念が嫌いな人は会社にはいない方がいいと言っています。どんなに優秀でも嫌いな者同士を合わせたら、プロジェクトも絶対うまくいかないと思っています。多少能力が落ちても価値観が合う者同士の方が、楽しんで仕事ができます。
坂上:分身というのはその考え方に合っていますね。そして、社員が言うのは考え方が同じだから。
小板橋社長:そうです。例えば一日一生のところなんていうのは、数人の社員が、未だにそれを読むとしびれると言います。社員が僕を惚れてくれていなければ仕事はできないと思っています。というのは、私は銀行時代に嫌いな上司と仕事をするのは嫌でしたから、いいパフォーマンスを出せたかというと疑問です。でも惚れた人には、アホみたいにやっていたんです。絶対この人を業績優秀にさせるんだと。
坂上:ご自身が好きだったその人は、どのような人だったんですか。どのような価値観にご自分は共鳴したんですか?
小板橋社長:自分に厳しく、かつおおらかな方でした。人間的に惚れてしまって、おおらかさと仕事に対する厳しさ、細かさを持っていました。
坂上:経営理念と業績の関係は?
小板橋社長:確実に伸びています。
坂上:具体的にはご自身の会社ではどのようなことがありましたか?経営理念ができてから業績が伸びたという実例を一つ教えていただけますか?
小板橋社長:例えば部署を越えて協力しあえることです。一つの例でいうと、例えば賃貸の窓口にはハイシーズンというのがあり、この時はお客様が集中するんですが、それを賃貸の人間だけではなく会社全員でやってくれるんです。例えば建築の人間も、自分の業務を置いといて自然発生的に、忙しいシーズンは皆でそこの部分を助けてくれます。
坂上:会社の規模も変わっていると思うんですが、平成5年に5人程、平成10年で10人程、平成17年の時には何人になられたんですか?
小板橋社長:平成17年で、70人になっています。
坂上:部門は当時、いくつぐらいありましたか?
小板橋社長:賃貸、管理、営業、住宅建設、一般建設、経理の6部署ですね。
坂上:では各部署に10人ずつぐらいいると。すると、ある部署が忙しい時に、経営理念がなかったとしたら?
小板橋社長:たしかに手伝う人間はいました。私も毎日これを唱和していたということや、チーム活動であるということを常に言い続けたということもあります。例えば、それをやることによって、それまでは『俺は俺。』と言っていた人から手伝ってくれてありがとうと言われたんです。それがあってから、一番そういうことを考えてなかったような人が、自分から声をかけるようになっています。例えば土日になると、今度の土日大丈夫?という具合に。
坂上:理念は誰が作ったんですか?
小板橋社長:私一人です。
坂上:理念をつくるにあたって苦労はありましたか?
小板橋社長:自分なりに現場で体感したものをメモにとっていました。今もトイレと車の中と寝床に置いてあります、
坂上:仕事のメモですか、それとも理念に近いメモですか?
小板橋社長:決めてないです。何か考えたら書こうと。
坂上:その蓄積されたものが理念に集約されていったという感じですね。平成10年から17年までの7年間があるんですが、この間もメモをとりながら?
小板橋社長:気づいたことを書いていました。
坂上:理念をなぜ作ったかというと、ありがとうと言われた嬉しさや、自分で作ってみたいということでしたが、加えて一言でいうとどんな理由が大きかったですか?
小板橋社長:人数が大きくなったというところが大きいです。10人以下だったら毎日色々話しますから、なくていいとは言いませんけど。やはりまとめるには必要ですね。
坂上:拠点が別になるとか、人数が増えることによってということですね?
小板橋社長:それは確実にありますね。
坂上:経営理念を浸透させる工夫を具体的に言うと?
小板橋社長:M&Aする前から続けてやっているのが、毎月の社内レクレーションです。内容はスポーツと決めていて、例えば体育館でバドミントンを半日集まってやっていて、もう14,5年になります。窓口には『社内研修の為』というような張り紙をして、昼間に体育館で私も一緒に大騒ぎします。普段も声をかけるようにはしていますが、その時ほとんど全員に声をかけられますね。みんなアトランダムでチームになりますから、係も会社も超えてやるので初めて会う人もいるんです。普段は会社の場所も隣町にあったりするので、そこで会うことで非常に効果は高いです。
坂上:それは業務ですか?
小板橋社長:僕はこれを会社の仕事と言ってます。給料も出してます。
坂上:給料出してるというのは重大だと思いますね。意外とそういうものって大事なんですね。他には?
小板橋社長:毎朝朝礼時に理念を唱和しています。
坂上:何分間やるんですか?
小板橋社長:朝礼は月曜日は1時間程やります。月曜日は私の講話の時間と決めていて、半日する時もあります。これはもう15、6年続けています。講話をしながら、あとは質問や会話をして、こんな時どう考えるんだというのをひとりひとりに言わせます。そうするとみんな聞きますから。
坂上:何か会社の実例についてですか、それとも実務についてですか。
小板橋社長:決めてないです。そのために考えるのではなくて、前の週に自分が考えていたことや経験したこと。その内容の中でどういうことが考えられるか。俺はこう考えたんだと。
坂上:自分が思ったこと、価値観をそこで伝えているということですね?
小板橋社長:そうです。その時お前らだったらどう思うかとか。
坂上:拠点が3つとか4つになってきた時にはどうするんですか?全員が一旦集まるんですか?
小板橋社長:月曜と火曜に分けてます。内容は多少リンクしながら。建設の人間は現場を見るから、社長の代理的な人間なので、リーダーは何なのかという言い方をすることが火曜日は多いです。
坂上:理念を浸透させる時の苦労はありますか?
小板橋社長:同じことを一年間言い続けています。言葉のいい方が違うだけで、言っている内容はひとつのことだけです。
坂上:ご自身の中で、一年間にひとつテーマを決めるということですか?
小板橋社長:自分の中であるのは、どうやったら常にみんなが同じ方向を向いてられるのかということ。自分の生き様を喋っています。
坂上:週に1回、部門が2つということでしたが、1部門だとしても、年間52週あるので、年間に50時間ぐらいはそういった時間に使ってるということですね?
小板橋社長:確実に使っています。
坂上:この1年間で新卒何人、中途何人ですか?
小板橋社長:新卒は1人。中小企業なので、定期的にはとれないということと、どちらかといえば僕は、今は中途でいいと思っています。中途は4人です。
坂上:80人のうち、去年入った中途の方が3人か4人いらっしゃる中で、どのように理念を浸透させるのか教えていただけますか?
小板橋社長:月曜日にやる。それは全く変わりませんし、あとはその人たちの前では、いつもすれ違えば声をかけます。
坂上:関係性を作ろうとされているということですね。
小板橋社長:私との関係性は絶対必要だと思います。私が新入生の頃、支店長に声をかけられた時にすごく嬉しかった記憶があるんです。逆に、社長から声をかけられたのは初めてだと感動されたこともあります。
坂上:例えば中途で入ってきた人に、座学をさせるといったことは?
小板橋社長:あえてそれはしていません。座学はバランスをとって、いわゆる幹部と、真ん中ぐらいの社員と、新入生を集めた朝会というのをやっています。
坂上:どのくらいの頻度でされていますか?
小板橋社長:3カ月を1クールとして、毎週月曜日の朝7時から1時間。私が経営についてとか自分の生き様を、朝礼とは別に座学として勉強しようということでやっています。
坂上:個人の価値観と経営理念の関係は?
小板橋社長:経営理念をそれまで気にしてなかったようなタイプはいます。基本的には、そういう人間に重要な仕事をわざと渡します。確実に辛くなる瞬間までもっていくんです。一人じゃできないということを分からせたいので。だってお前自分でできるって言ったじゃないかと。そして、ちょっと飲み行くかと言って、飲みニケーションをとります。
坂上:そういうズレが度々起こる感じではないんですか?
小板橋社長:度々は起きないです。今、そういう人間は思いあたらないですね。
坂上:飲みニケーションっていうのは会社では定期的にやってらっしゃるんですか?
小板橋社長:ローテーション組んでというのはないですけど、例えば月に1回のレクレーションのあとは、みんなで行ったりします。
坂上:必ず月に1回はレクレーションプラス飲み会があるということですね。それ以外にはありますか?定期的に。
小板橋社長:あとは社員同士ではそこそこいってるんでしょうけど、私は必ず名前を呼んで連れ出しますね。
坂上:どれくらいの頻度ですか?
小板橋社長:思いつきもありますし、自分の中ではあいつは来週絶対誘うとかですね。あいつちょっと悩んでそうだから誘うぞ、というのは、日報を毎日読んで決めています。
坂上:日報と繋がってるんですね?
小板橋社長:はい。私は15年間毎日、日報は全員の分を必ず読んでいます。
坂上:何で来るんですか、メールですか?
小板橋社長:紙にしています。メールにしたこともあるんですけど、何かしっくりこなかったんです。遅くても翌日になりますけど、できる限り夜中に。
坂上:70名分ですか?
小板橋社長:そうです。そして、気づいた人間には夜中にメールを打つんです。何かこいつ悩んでるぞ、ということが、日報をずっとやってると確実にわかってきますね。
坂上:コミュニケーションとしてですね?
小板橋社長:文字の勢いとか、内容とか、量が違ってきますね。
坂上:これから続く経営者に何かメッセージをと言われたら?
小板橋社長:自分は、自分と同じ方向に向けるという意味では、経営理念の下で会社をやっています。中小企業の場合は、人が一人で何割も占めてしまうような仕事もあります。そういう中では、経営理念の下でやっているということは、確実にそれが浸透した時に、自分の分身になってくれますし、自分のフォロー役にもなってくれますし、お守りになると思います。
坂上:経営理念の満足度、浸透度は100点満点で何点でしょうか?
小板橋社長:経営理念の満足度は85点。浸透度は75点ですね。
経営理念
~夢の実現と感動の共有~
一、私たちは住環境創造を通じて
社員一人ひとりの夢の実現と震えるような
感動を共有できる企業を築こう
一、私たちはお客様第一主義を貫き地域社会
の繁栄に貢献することで企業の社会的責任を果そう
一、私たちは3つのC(change、challenge、communication)
を実践することで一日一生の決心で生き抜こう