経営理念(例)をつくるポイント

ポイント1「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する』これ以外に、企業の目的はない」と稲盛和夫氏が言うのですから、経営理念の一番始めはこれでありたいところです。つまり、「社員を幸せにし、社会に貢献する会社であるために会社を経営しています」ということです。

誰でも、自分だけ良ければいいと思うところがあるので、その心を戒めるためにもこの言葉は必要です。つまりそれは利己と利他という考え方です。「社員が社長のために働く」というのではなく、「社長が社員のために働く」という考え方が、社長が利己で考えるのではなく、社長が利他で考えるということです。社長が「社員のため」にと思えるかどうかということが大事なポイントです。

ポイント2経営を見る視点として、(1)人間性の追求、(2)社会性の追求、(3)経済性の追求という3つの視点を入れてほしいと思います。会社は人間の集まりであり、経済を通じて、社会とつながっているということです。経営を考えるときに、この3つのどれが欠けても成り立ちません。人間性を欠いた企業は継続しませんし、社会性を欠いた企業は社会から淘汰されます。また、経済性がない企業も存続できません。

ポイント3「主義」「信条」という言葉をここでは使いましたが、クレド、ウェイ、モットーなど、自分が一番合っていると思う言葉が一番いいのです。

「○○のために」「□□する」というのはわかりやすい表現です。
「○○という人や事柄のために、□□という活動をする」のです。
「その目的のためにこの行動をする」というのでわかりやすいのです。

「社訓」なら「~すべし」「こうあるべき」というトーンになりますが、できたら「私たちはこうありたい」「こうなりたい」というほうが気持ちがいい気がします。
「~すべし」は"MUST"ですが、「こうしたい」は"WANT"だからです。
義務的な感じのする"MUST"と、希望や願望の感じがする"WANT"の違いなのかもしれません。

「人として正しいことをする集団でありたい」という言葉は、人としての「倫理観」(Ethics)です。
この倫理観というものが、経営理念をつくるうえで、一番大事な要素なのではないかと思います。

経営とは詰まるところ、人が人を相手にする行為ですから、最後は信頼関係が重要になるのです。人は誰でも、ウソをつかない人、ズルをしない人とつき合いたいのです。絶対に騙されない、絶対に安心だという人とのつき合いをしたいのです。しかし、現実はそうではないから、みんなが欲しているのです。その根本が、倫理観となるのです。聞けば当たり前だし、どうってことないつまらない言葉なのかもしれません。しかし、それを実行する、そして、全社員が実行し続けるということがとてもとてもむずかしいのです。

経営理念はつくるのも大変ですが、つくってから実際にその経営理念を実行し続けることが一番重要であり、一番むずかしいことです。「浮利を追わない経営をする」といっても日本中がバブルに浮かれていたときは、誰もが本業より浮利を追うことに夢中になりました。あのときにお金があっても、株も土地もやらなかったという人はごく少数だったと思います。

経営理念がなければ、思いっきり突っ込んでいったことでしょうし、たとえ経営理念があったとしても、その衝動を抑えきれずに手を出してしまったのです。わかっていてもやってしまう。お酒が好きな人が、「今日はあんまり飲まないぞ」といいながら、二日酔いで後悔するのに似ているのかもしれません。「今日は早く寝て、早起きしよう!」と思っていてもなかなかできないのに似ているのかもしれません。そういう意味では、経営理念は「弱い自分を縛るもの」といえます。だからこそ、弱い自分を自覚し、間違えが起きないように持戒の言葉を入れておく必要があるのです。

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