経営理念は社外に発信するためにあるのか?同じように、「経営理念を社外に発信するためにつくる」という話も聞きます。しかし、これも「社員のモチベーションを上げるために経営理念をつくる」という考え方と同じで主客が転倒しています。
社員のモチベーションが低いので、経営理念集をつくり、社外の人にも発信して社外の人からホメてもらうことでモチベーションを上げるというやり方をとる会社もあります。たしかに、カッコいいデザインのロゴをつくり、こぎれいな経営理念集をつくって全社員に配り、社外の関係者にも配れば経営理念に関する情報の発信にはなります。しかし、旅行のパンフレットと同じように配られたときには見るのですが、すぐに引き出しの中にしまわれるか、ゴミ箱の中に行ってしまうということもあります。
社外に発信するために経営理念をつくるというのは、社外に発信するという「目的」のために経営理念という「手段」を使うことになります。そうではなく、経営理念をつくり、社外の人にも見てもらうことで、(1)自分の会社を理解してもらう、(2)自分の会社を応援してもらう、(3)自分の会社を監視してもらうことになるのです。あくまでも、それは結果です。
しかし、経営理念を発信しなければ社外の人は、どんな考えで経営をしているのかがわかりませんから、発信することは非常に大切なのです。また、経営理念を発信することで、理解してもらい、応援してもらうことが可能になるわけです。さらに、人間は弱いので社内外に高き理念を発信することで、自分自身を縛り、有言実行をしやすくするのです。
「世界のリーディングカンパニーを目指す!」と言いながら、低いレベルのサービスを提供するわけにはいきません。人は「言ったらやりたくなる」という一貫性を持っています。その意味でも、経営理念を社外に発信することで一貫性を持った行動ができるようになります。言ったこととやっていることがブレることがないように、社外の人にも見てもらいながら、いい意味で監視されることも大切です。
経営理念は経営をするためのツール、道具なのか?経営理念を、経営をするためのツール、道具のように考える人や会社がありますが、本質的には間違っているといえます。経営理念とは何のために経営をするのかといった本質的な考え方をまとめたものであり、経営を始めるにあたっての根幹です。
生きるためにパンを食べるのであって、パンを食べるために生きるのではありません。生きるという目的のために、パンを食べるという手段があり、パンを食べるという目的のために、生きるという手段があるわけではないのです。つまり、パンを食べるために生きるとなると、目的と手段が逆転してしまうのです。
同じように、経営理念を実現するために経営をするのであって、経営をうまくやるために経営理念をつくるのではありません。経営理念を実現するという目的のために、会社を経営するという手段を使うのであって、会社経営をうまくやるという目的のために、経営理念をつくるという手段を使うのではありません。
ここでいう会社経営を「うまくやる」とは言葉を換えると、「社員のモチベーションを上げて利益を出す」であり、「社外に経営理念を発信することでいい経営をしているように見せかける」となります。そこには何かあざとさを感じます。
経営とは、ロゴやデザインだけで良くなるものではありません。バブルの頃には、会社のロゴやキャッチフレーズをつくることがとても流行りました。しかし、それで会社が良くなったかと問われれば多くの疑問が残ります。ロゴやキャッチフレーズは会社を表現する一つの手段でしかありませんので、本質的に会社が成長することとは違います。
一流の企業、本物の企業は経営理念の冊子づくりにパワーや時間を使うのではなく、経営理念の本質に圧倒的な時間を使います。それはつまり、次のような哲学的な内容です。
「何のために経営をするのか?」
「どういった判断基準で経営をするのか?」
「この経営を通じて何を実現したいのか?」
「働くとは何か?」
「自分はどういった人生を歩きたいのか?」
そしてさらに、経営全般に関する考え方にも思考の範囲は広がります。
「顧客の心理とはどういうものか?」
「価格の決定とはどうするものなのか?」
「社員の気持ちをまとめるにはどうしたらいいのか?」
「この商品の果たしてきた役割はどういったものか?」
「これからどんな未来になり、どんな生活がされるのか?」
このようなビジネスを通じた心理学や未来予想などです。経営者はより広く、より深い、哲学ともいえる考えを持つ必要があるのです。そして、その思想体系をまとめたものが経営理念といえるのです。