なぜ経営理念が必要なのか?
社員のモチベーションや社外への発信のためだけでなく、経営理念の本質を考える
経営理念は社員のモチベーションを上げるためにあるのか?「経営理念をつくったら、社員のモチベーションが上がってよかった」という声をよく聞きます。「私の友人の会社が経営理念をつくって社員のモチベーションが上がったので、私の会社も経営理念をつくろう」という人もいます。「自社の社員のモチベーションが低いので、社員のモチベーションを上げるために経営理念をつくろう」というわけです。
しかし、これはどこか変な感じがします。経営理念をつくった結果、社員のモチベーションが上がるのであって、社員のモチベーションを上げるという目的のために、経営理念をつくるという手段があるのではないのです。経営理念をつくることを、社員のモチベーションを上げるための手段と捉えてしまうと、経営理念づくりがどこか表面的な浅いものになります。
経営理念をはっきりさせ、経営理念をつくるという行為は、本来は経営の目的をはっきりさせることであり、会社のありたい姿をはっきりさせることであり、判断の基準をはっきりさせる行為です。社長と社員が仕事とは何か、自分自身の役割は何かといったことを深く、真剣に考えることが自分自身の精神的な成長を促します。
また、経営理念をつくるプロセスで自分の考え方を整理し、修正してゆくことや、経営というものを通じて、仕事や人間というものをより深く考え、いままで見えなかったものに気づくことが人間的な成長となるのです。数年という長い時間がかかることですが、時間がかかるからこそ意味がある。大きな木がしっかりと根を張るのに時間がかかるように、自分の思想が深まるのにも時間がかかります。1日や2日で本物の経営理念ができるはずがありません。
さらに、経営理念をつくり働く人たちが考え方を共有することで、気持ちのうえで同志となります。考え方を共有する者同士の所属感が出てきます。人は誰にでもどこかに所属したいという欲求があります。孤独でありたくないのです。家族や友人や会社という組織に気持ちのうえでつながっていたいのです。経営理念がしっかりしているということは、自分がその組織に属しているという所属感を満たしてくれます。
こういった考えの人たちが集まる、こういった社会的意義がある組織に属しているという満足感が出てきます。官僚組織、一部上場企業、名門大学などのブランドの高い組織であればでなおさらです。経営理念がはっきりすれば、そこに所属する人たちの所属感を高め、孤独感を少なくすることになります。そのことは結果的にモチベーションを上げることになるのです