健康のためにマラソンを始めた人が、走りすぎて体を壊すことがあります。本来の目的は「健康になること」。そのための手段としてマラソンをします。しかし、いつの間にか手段であるマラソンが目的化してしまい、本来の目的である「健康になること」にマイナスとなることがあるのです。
さらに、家族が心配して「体調が悪いなら今日はマラソンをやめたら......?」と言っても、「うるさい!俺はランニング距離の目標を決めているんだ」とケンカになったりもします。目の前の手段であるマラソンに熱中するあまり、もともと求めていた健康のためにという目的からまったく逆の方向に向かってしまう。笑い話のようですが、実はよくある話です。一生懸命やるあまりに、目的と手段が逆転するのです。健康や家族など大切なものを失って初めて気づくのです。
「あれ、何のためにこれをやっていたんだっけ?」
経営は人がやることですから、同じようなことが経営でも起こります。一社員が健康のためにやるマラソンで手段と目的を間違える程度ならまだいいのですが、経営者が経営の手段と目的を間違えると、社員が不幸になります。
経営のステージによっても目的が違います。初めのステージは食べるために売上を上げることだけの場合もあるかもしれません。しかし、経営のステージが上がれば社長の経営理念も変わります。たとえば、経営の目的が「社長の自分が金持ちになるため」だとします。すると、社員は社長が金持ちになるための手段になります。社員を安い給与で働かせて、社長だけがお金持ちになる。「あの社長の年収は1億円!」といって雑誌やテレビで、もてはやされているような話です。ある社長の豪邸に社員が行ったら、「ああ、この柱はわたしが働いたお金でできている」とつぶやいたそうです。
しかし、社長にしてみると、「オレがつくった会社でオレが儲けて何が悪い!」「オレの会社だ!文句言うな!」となります。これでは社員が不幸です。「経営の目的が社員の幸せではない」という会社の例です。
一方、経営の目的が社員を幸せにし、社会に貢献することであれば、会社は社員を幸せにする手段=道具です。利益も同じように手段=道具です。つまり、経営の目的が違えば経営のやり方が180度違ってくることになります。経営の目的が、「自分が金持ちになりたい」という社長の利己ならば、社員と会社はそのための道具です。一方、経営の目的が、社員を幸せにすることであれば、お金は道具となります。
ある社長が、自分が金持ちになるために会社を始め、給与が1億円となったとしても、どこかで考え方が変わる瞬間があるのかもしれません。「何かが違う、このお金は自分のものじゃない、お金のためだけに働くのはおかしい」と気づき、「社員を幸せにするために経営をしよう」と考え方を変えるかもしれません。
毎日、行なわれている仕事の内容はまったく同じでも、社長の考え方が変わった瞬間に経営の内容が180度まったく変わるということも起こり得るのです。経営のステージが変わることで、経営理念が変わり、会社の中身が変わるのです。