「利他」とは何か?

経営理念を考えるうえで、この「利他」というキーワードは大切です。自分だけよければいいという「利己」ではなく、人のために役立つという「利他」です。「『利他』の心とは、仏教でいう『他に善かれかし』という慈悲の心、キリスト教でいう愛のことです。もっとシンプルに表現するなら『世のため、人のために尽くす』ということ。人生を歩んでいくうえで、また私のような企業人であれば会社を経営していくうえで欠かすことのできないキーワードであると私は思っています」(稲盛和夫/『生き方』サンマーク出版より)

人に良かれと思い、「貢献」する、「利他」をすると、人に喜ばれ、感謝され、自らがうれしい。与えたのに与えられている状態です。人に良くしたことが自分にとってもいい状態。体が喜べば心も喜ぶという「心身相即」のような状態。コインの裏表のような一体化したものです。

「生き馬の目を抜くような競争社会において、『利他』などという甘いことを言っていられるか!」と思われるかもしれません。たしかにそのとおりなのです。私も「やられた」「損をした」と思ったことが何度もあります。しかし、それでも「利他」の気持ちを持っていきたいと思っています。人と人が行なう仕事の中で、自分だけ良ければいいという考え方ばかりでは、長く気持ちのいい付き合いをしていきたいと思うからです。

「人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして、己を尽くし人を咎めず、我が誠の足らざるを尋(たず)ぬべし」(西郷隆盛)という言葉があるように、目の前の人との駆け引きばかりに目を向けず、天を相手にして人に良かれという利他の気持ちを持っていたいと思うのです。

私の孫が誰かに会ったとき、「君のおじいさんには本当にお世話になった。感謝している」と言ってもらえる人生でありたいのです。「おまえのじいさんには、ひどい目にあわされた」と言われる人生でありたくないのです。この二つの人生は雲泥の差です。利他の思いや行動はその瞬間には答えが出ないかもしれません。しかし、ある時間が経てばわかることもあります。また、もし、人にわかってもらえなくても天が見ていると思いたいのです。

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